なかなかこころおくれて 02-182 [なかなか心後れて]

2021-01-14

歌を詠みかけるのは気が利いているようで、折柄を考慮にいれないとかえって気が利かないことになる。このあたり、左馬頭の論というより、紫式部の地声の感がする。


さるべき節会など 五月の節に急ぎ参る朝 何のあやめも思ひしづめられぬに えならぬ根を引きかけ 九日の宴に まづ難き詩の心を思ひめぐらして暇なき折に 菊の露をかこち寄せなどやうの つきなき営みにあはせ さならでもおのづから げに後に思へばをかしくもあはれにもあべかりけることの その折につきなく 目にとまらぬなどを 推し量らず 詠み出でたる なかなか心後れて見ゆ

大事な節会など、端午の節会に急いで参内する朝なんの分別もわからぬほど心しずめられずにいるのに、立派な菖蒲の根を寄越し歌を詠めと言ってきたり、重陽の節会に何はさておき難韻の作詩に思いを巡らせゆとりがない時に、不老長寿を願う菊の露にこと寄せ歌を詠めなどといった手も出せない申し入れに加え、言われなくても後から思えばおのずとたしかに興味もそそり愛情もますような事柄ではあれその時の状況には不似合いでつい見落としてしまったことなどを斟酌せずに、詠みかけてくるのは、気転が利くようでかえって思慮を欠いてみえるものです。

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